【レースレポート】Tarawera Ultra Marathon 100mile in New Zealand

エントリーにあたって

このレースの存在はUTWT(Ultra-Trail® World Tour)の1つになっていたので、かなり前から知っていたし、このレースのことを目にする度に景色のきれいな写真を見ており、興味はあった。ただ、今年に関してはAレースとして4月にUTMFがあったので、走ろうとは思ってなかった。
 
しかし、去年100kmレースを完走した嫁が次は100mile走ってみたいと言う。
嫁のレースを探していくなかで、ニュージランドは彼女が行きたい国であること、暖かい気候、taraweraのコースが獲得累積が少なく、エイドも多いということで、彼女の100mileレースデビューをtaraweraに決めた。
 
せっかく行くなら、自分も走りたいと思い、勢いで一緒にエントリー。(「一緒に走ってやれよ!」というツッコミは多方からいだいているw ホントにその通りだと、あとから痛感するが、「気にしないで走っていいよー!」と言ってくれる寛大すぎる嫁に多大な感謝。)
 
UTMFとの間隔が少し短いという懸念はあったが、シングルトラック率が高く、かなり足に優しいサーフェスであり、レース時間も100mileにしては短いので大丈夫、これも経験だと思い、走ることを決めた。
 

コースプロファイルはこちら。

165.2km/D+5,470
Single track 59% | forest track minor forest route 22% | farm/park 2% | forest road 8% | public road 9%
 

ラウンド型のコース

 

旅の日程

水曜日の夜に日本を出て、木曜の朝オークランドに到着。そこからレース会場のロトルアまではバスで3時間ほど。飛行機でも行けるが、時間に余裕があったのとホテル近くまでバスが行ってくれるので、今回は飛行機ではなくバスをチョイス。(後にこれが悲劇となる..。帰りのバスで嫁と自分のレースで使ったウェアやギア、完走の証となるマオイのネックレスなどが入ったスーツケースが紛失してしまい、結局そのまま見つからなかった…)
 
レースの受付を金曜にして、土曜の朝4時にスタート。制限時間が36時間でレース終了が日曜の16時。
 
 
なので超弾丸でいけば日本を木曜夜発で金曜について、レースを走ってそのまま日曜の便で帰国も可能。ただロトルアは観光地で温泉施設もたくさんあるので、月曜はゆっくりロトルアで過ごすのがおすすめ。
 
僕たちは月曜にロトルアでゆっくりした後、オークランドに戻り、オークランド滞在後、クイーンズタウンに飛行機で移動し、ダウトフルサウンド、テカポ湖、マウントクックとニュージランド旅行を満喫した。

マウントクック

陽が長いし、天気もいいし、どこで食事をしても美味しいし、最高の国だった。いつの日にか長期間滞在したい。
 

レースに向けての準備と目標

レースに向けてのピーキングはランボーブログに詳しく書いたのでこちらから。
 
細かな練習内容はここでは省略するが11月からレースまでの約3ヶ月間。計画した練習はほぼ全てやり切れていたので自信を持ってレースに臨むことができた。
 
目標は20時間切り。20時間を切れば去年だと総合3位だ。なので5位入賞を視野には入れていたが、今年は招待選手など強い選手も多かったので、順位はあわよくばで、まずはしっかり自分のペースで走り20時間以内でゴールすることを一番に。
 

リラックスのレース前

 
スタートは朝4時。朝食を3時間前に取りたいので1時に目覚ましを合わせて、20時にベットに入る。ニュージランドは陽が長く20時では、まだ外は明るい。そんな中寝れるかという不安をよそに、すぐに眠りに着く。しかし10時半に目を覚ましてしまう。そこからはなかなか寝むれず目を閉じるだけの時間が1時間ほど続く。その後は気づいたら寝ており、目覚ましで起きる。最低限の睡眠はとれた。
 
日本から持ってきた、白米と塩こんぶ、味噌汁で朝ごはんを済ませ、レースの準備を終えて、ベットで再度身体を休める。普段レースの前はこの時から少しピリッとした緊張感があるのだが、今回はかなりリラックスしている。
 
スタート会場まで3kmほどあり、Uberにて30分前に会場入り。
 
スタート地点は温泉地で大量の湯気と硫黄の匂いで包まれている。
 
気温は20度ほどで小雨が降るなかスタート地点の最前線に立つ。ハカの舞を目の前で見て、気持ちが高まってくる。気張りすぎず、リラックスと集中がちょうどいい塩梅で交じるいい精神状態だ。
 

気持ちの良いコースと落ち着いた走りの序盤

 
観客のカウントダウンでスタート。
スタートと同時に5人が勢いよく前に出る。キロ4分前半だろうか、飛んでいるようなダイナミックな走りだ。
 
そこにはつかずマイペースで進む。「100kmまではスタート地点へただの移動だ。」と思い、他の選手は気にしない。
 
先頭5人のあとにも、また5人ほど先行し、自分の前後には複数の選手が。
 
その中でも一人の長身の女性が目についた。
CAT BRADLEY選手だ。
ウエスタンステーツの女子優勝者で総合15位、UTMBでも入賞、総合55位とかなり上位だ。レース前からチェックしており、一つの目安になる思っていたし、単純にその走りを見たいとも思っていた。
 
ちょうどいいペースだったので、見える範囲で走る。途中自分が前に出るも、すぐに追い抜いてくるので、大人しく後ろを走る。動きがしなやかでフォームもきれいだし、リズムも一定だ。
 
しかし、並走は長くは続かず、1つ目のエイドを自分はスルーし、彼女はサポートクルーのもとへ向かったのでここでお別れ。彼女とはこれ以降会うことはなく、リザルトを見るとリタイアしたよう。
 
 
それ以外にも後を走ってたランナー達もエイドを抜けるといなくなっており、ここから単独走に。
 
雨も止んで、朝日が登る。コースの雰囲気が最高で、まるで絵本の中に出てくる森を走っているような感じ。程よく踏まれたシングルトラックを気持ちよく走る。ここから50kmまでは本当にあっという間。
 
 
 
途中で女性ランナーに抜かれた。身体は小さいが、すごいピッチ数で淡々と走っていく。この女性には二度と追いつくことなかった。結局彼女は総合3位でゴールした。
 
ここまで心拍数は150をほとんど超えることなく、補給もしっかりとれているし、疲れもほとんど感じることなく、順調そのものだ。自分が何位か全く把握しておらず、前後に人もいないので、人のことを気にせず自分のペースでしっかり走れているのも良かった。
 
ここでボートに乗るポイントに到着。1.5kmほど大きな湖を渡るため、ボートに乗る。自分の前後には人がいなかったため、贅沢にも一人で出発。
 
タイムロスもなく、補給もゆっくりできて、思わぬ形で一息つけた。もうひとつ予想外なことが。ここで操縦士のおじさんから「お前は6位か7位だ」と告げられる。思ったより上位だ。
 
上位5位までが入賞なのでこの位置だと否応にも意識してしまう。しかし「まだレースは始まってもいない」と自分に言い聞かせ、ボートから降りたあとも、決して慌てて前を追うことなく自分のペースで足をすすめる。
 
 

灼熱のロードから永遠の続く林道

 
ボートから降りると左右に大量の牛がいる広大な牧場の真ん中を次のエイドまで約7kmひたすら走る。ここは陽を遮るものが何一つなく、太陽が容赦なく、照りつける。身体がオーバーヒートしないようにペースをあげず、首、顔、手首、太ももにフラスコの水をかける。水をかけた直後の風が最高に気持ちいい。
 
エイドにつき、ゴミを捨てて、ドロップバッグからジェルをザックに詰め込み、首から水を浴びて、MAGMAとサカナのチカラを流し込み、止まることなくエイドを出る。決して慌ててないし、やるべきことをスムーズにこなす、我ながら見事なエイドワークだったと思う。
 
エイドを出るとひたすらにまっすぐなロードが続く。その距離約13キロ。ところどころにある微妙な登りと強い日差し、ロードからの照り返しにより、ペースは速くないが少しずつ心拍数が上がっていく。身体に水をかけても下がらない。このままではまずいと一度かなりペースを落とす。ただ決して歩くことはせずに、走り続ける。時折通る車からのクラクションと声援で少し頬が緩む余裕もまだある。
 
長ーいロード区間を終えて、ようやくトレイルへ。何度も硬いロードに打ち付けられた足がふかふかなトレイルで少し楽になる。森の中に入り、日差しもシャットダウンされ、心拍数も落ち着く。ここまで80km。
 
走ってるうちに身体が絞れたせいで、心拍ベルトが落ちてくる。少し数値がおかしくなってきたこともあり、ここで心拍ベルトを外す。今日は体感と心拍数がほぼ一致しているので問題ないと判断した。
 
ここからは長い林道の下りが続く。高低図でみるよりも緩かな斜度だ。決してとばすことなく、ちゃんと足を回し、丁寧に丁寧に。下りの走りを練習期間に見直し、大腿四頭筋ではなく、お尻で受けるように走れるようになってきたのを実感する。
 
下りが終わるとともにエイドに入る。ゴミを捨てて、水を補給し、オレンジをかじる。いつもの作業をこなし、すぐにエイドを出ると、前に一人のランナーが見える。しかし、そんなにテンションは上がらない。ここはひたすら自分のペースで進み、姿を捉えてから1kmくらいで追いつき、並走することなく抜かす。
 
エイドを出てからはしばらく登りが続く。斜度3〜4%といったような緩やかな登り。
ここまで90kmほぼ歩くことなく走り通してきた足には、いつもならなんてことない斜度もキツく感じてしまう。走り続けられない。走っては歩き、歩いては走る時間が続く。ここに来て、このレース初めて少しだけネガティブな考えが頭に巡ってくる。
 
「前半走りすぎてしまっただろうか、、」
「単純に力不足だった、、」
 
でもその時間は長くは続かず、少しずつポジティブに。
 
「今回出来る練習はやりきった。それでダメなら仕方ない。そのうえで次はこうした練習も取り組もう。」
「まだそこまで落ちてるわけじゃないし、ここからがスタートだ。必ず復活するときはくる。」
「辛くなる時間もあるかもだけど、それを含めて楽しんで!」←今シーズン一番一緒に練習した丹羽さんから嫁の投稿へのコメントを思い出す。
 
こんなことを思ってるうちに登りは終わり、下りへ。まだ足はしっかり動くし、少し大きな動きをいれると、登りでもしっかり身体が動いてくる。
 
もう大丈夫だ。
このレース、イケる。 
 
100kmを約10時間30分で通過する。
ようやく100mileのスタートだ。
 
 

身体も気持ちも最高の状態でゴールへ

 
102km地点エイドの200m手前でおじさんから「お前は7位だ。」と告げられる。ボートに乗るときに7位と言われそこから一人抜いた。前のうち1人は女性なのでいま男子5位ですでに入賞ラインに入ってると思っていたのでちょっと残念。
 

待ちわびた、この看板

 
しかしエイドに入る時にエイドから出る選手とすれ違う。ザックマリオン選手だ。アメリカ人の招待選手、topoやGORE、UltrAspireなどのサポートを受けるトップ選手だ。レース前からインスタで見ていた選手を捉えたのだからテンションが上がる。
 
その気持ちを落ち着けるように、エイドワークを淡々とこなし、エイドをあとにする。
しばらく走るもまだザックは見えてこない。決して歩き通しているわけではないみたいだ。まだあと60kmもあるので無理して追うことはせず、自分のペースで走る。
 
すると間もなくしてザックの背中を遠くから捉えた。すぐに距離を詰めることなく、少し観察。平坦はゆっくりだが走っている。しかし、少しでも登りになると歩いている。
 
「斜度に関わらず自分の方が速い。」
 
そう確信し、少しずつ距離詰め、短い言葉を交わし、並走することなく追い抜く。これで入賞圏内だ。
 
気持ちもあがり、左の視界にきれいな湖を覗きながら、小刻みなアップダウンを心地良いリズムで走り続ける。ザックを抜いてからそんなに時間がしないうちに、もう一人選手の姿が。
 
 
明たかに自分の方が動きがいい。ここも並ぶことなく追い抜く。これで4位だ。
でもまだあと50km超ある。100mileはこれからが本番だ。
登りに入り、歩きに切り替える。登りを終えて、少し下ってエイドに到着。
 
このエイドから次のエイドまでの10km。どんなところをどう走っていたか、何を思って走ってたのかあまり思い出せない。
 
唯一思い出せるのが時計の電池が切れかかった、ということだ。僕が使っているGARMIN945は通常のgpsモードで35時間もつ。なので特にgps精度に関して設定をいじることなく、スタートした。だが今回はgpxデータを取り込んでいた。この使い方は練習でも、試していたが、実際に地図を取り込んだコース上を走るのは初めてだった。
 
スタートして間もなく、曲がるところがあると時計があと何メートルで右に曲がるということを教えてくれた。この案内の度に時計に振動で通知がくる。これにより充電ゲージの減りが早くなっていることに気づいたのは40kmほど経ったときだった。
 
 
そのときにすでに残りは65%ほどだった。そこでナビを切り、ここまで進んできたがとうとうバッテリーは残り3%を示していた。完全に切れては困るのでせめて時間だけは分かるように120kmのエイド地点でランニングモードを終了し、ただ普通の時計の画面にする。時間さえ分かれば、補給のタイミングとゴールタイムがわかるので問題ない。ただ次のエイドまでの距離を把握するため、ザックからスマホを取り出し、stravaで記録を取り始める。
 
この作業をエイドで済ませ、ドロップバッグから大量のジェルをザックに詰め込み、エイドを出る。
ここからこのコース最大の登り、エイド間の距離が最長区間を迎える。最大の登りといっても400mほどの登りだ。高尾山に登るようなもんだ。大したことはない。
 
それに、走り続けてきたので、歩ける登りは走らなきゃいけないという気持ちから解放してくれる。
 
淡々と登り、大きく苦しむことなく、頂上に。その後気持ちよく下って、再び登りに。またいやらしい斜度で走れる登りだ。走り始めるが長くは続かず、歩く。
 
しかし歩いてもキツい。走ってるのと同じくらいキツい。
それであれば走ってしまおう。一見、正しいようで謎な理屈が腹落ちし、次のエイドまでの緩やかな登りを走り通した。
 
137kmまで来た。このエイドでもゴミを捨てて、水を補給し、オレンジをかじり、すぐに出る。もう慣れたものだ。
 
コースは下り基調、陽が落ち始め、涼しくなってきた。最高のコンディションに背中を押され、いいペースで登りも下りも走り続ける。次のエイドまで12km。手元で自分がどれくらい進んでいるのか分からない。わざわざスマホを取り出して確認することもしない。
 
ただただ「いま」に集中し、走ることができた。何にも変え難い最高の時間だ。
 
しばらく走り続けていたからか、40分に一度の補給を後半から30分間隔に早めていたが、それでも少しエネルギー不足と空腹感を感じたので、ここから20分に一度の補給にペースアップ。少しジェルの味が濃く感じるようになってきたが、しっかりと補給出来ている。
 
完全に陽が落ち、149km地点のエイドに到着。いつものルーティンを済ませ、すぐにエイドを出る。
 
真っ暗な湖の上に、まんまるの月がきれいに輝き、周りには大量の星。
 
静かで真っ暗なトレイルをヘッドライトの灯りだけを頼りに走り続ける。
 
最後の登りを終えると、最終エイドだ。ここまで158km走ってきた。あと4km。そう思って最終エイドをスルーすると、エイドを抜けたあとにゴールまであと6.9kmの看板が。。
 
後で確認すると、今回コピーして持ち歩いていた高低図だと162kmだが、最新のものは165kmになっていた。
 
まだジェルもあるし、水も少ないがまだ残ってる。しかも、残りはほぼ平坦だ。エイドに戻ることなく、そのまま走り抜ける。
 
エイドを出たのが18:27
18時間代のゴールは厳しくなったが、ペースを落とすことなく、キロ5分台で走る。「長かった、、」「もう終わってしまう、、」そんなことを思う暇もなく、ただただ走る。
 
一度街に出てから、再び森の中に入ってからが異様に長く感じたが、ようやく人気が出てきた。通る人通る人に「well done!! amaging!!」と声をかけてもらい、ゴールゲートに。
 
19:05
総合5位、男子総合4位入賞。
 
 
長いようであっという間の100mileの旅が終わった。レース中ほとんどの時間を一人で過ごし、ひたすら大好きなトレイルランニングにこれまでになく浸れた最高の時間だった。
 
 
一人ホテルに戻り、嫁の状況を確認する。
ここからまた、長い長ーい、もう一つの100mileが始まるのだった。
そんな嫁の初めての100mileの記録はこちらから。(自分のレポートよりわかりやすく、トレランやってない人にもわかる内容になっているのでぜひ読んでほしい。)
 
 

補給とギア

補給はほとんどがジェル。
ペースは40分に一度で後半からは30分に一度。
ジェルはWINZONEをメインで使用。色んなジェルを試したきたけど、一番美味しく飲みやすい。
それ以外にゼリータイプのアスリチューン。オレンジ味が好きでWINZONEの次に多用。
 
後半はドロップバッグに固形として、ライスピュレやエネ餅、スポーツようかんなどをいれてあったが今回は最後まで、ジェルを飲めたので使用することはなし。
 
それ以外には炎熱サプリを1時間に1粒。
MAGMAを2時間に一度。BCAAを5時間に一度。
サカナのチカラをドロップバッグがあるエイドで。
 
ギアは下記の通り。
RunboysRungirls、いつもサポートありがとうございます!
 

課題、今後

 

巡航速度の向上。

去年からスピードアップに取り組んでいて、一定の成果は出てきているが世界のトップとの差を考えるとまだまだ過ぎる。
 
今回トップとの差が約180分。1kmあたり1分以上差がある。これはもう登りが走れたらとか、下りが上手い下手とか、そういう問題ではなく、走力差を詰める以外はどうしようもない。
 

もうひとつは低強度での運動時間。

100マイルレースのペースは区間ごとに見れば決して速いものではない。そのペースでいつも練習しないと、とは思はないけど、疲れた状態でも動き続けられるようにする練習は必要かなと。
バイクやクロストレーナーでギアを少し重くて、ゆっくりでも動き続ける練習を、これまで以上に取り入れてみようかなと。
 
上記の課題はあるけど、このレースではいまある力を出せたし、タイムも順位も目標以上だ。そしてレース中もレース後も痛いところがないのがとても嬉しい。それに想像していたよりも身体へのダメージも少ない。
 
2020年いいスタートが切れた。しっかりとリフレッシュして、また1つずつ積み上げていこう。
そしてもっと強くなってまた最高の地ニュージランドにいつの日にか戻ってこよう。