車でクイーンズタウンをあとにして、約2時間。
やってきたのは、Te Anau(テ・アナウ)はManapouri (マナプーリ)の飛行場だ。
そう、ここから念願のニュージーランドの大自然を味わう、オーバーナイトクルーズの旅がはじまる。
憧れの世界遺産フィヨルド
美しき自然が広がるニュージーランドには、3つの世界遺産がある。
「トンガリロ国立公園」「亜南極諸島」「テ・ワヒポウナム」。
今回は、テ・ワヒポウナムを旅する。
テ・ワヒポウナムは、4つの国立公園で構成されており、その広さは、なんと国土の10%を占めている。
面積は260万ヘクタールを超えるというのだから、レンタカーでの移動時間は、想像するに固い。
ニュージーランド南島のシンボルのような存在である、ニュージーランド最高峰「マウント・クック」も、このテ・ワヒポウナムに含まれ、タスマン氷河や、14のフィヨルドなど、素晴らしい自然が今もなお息づいている。
訪れたのは、テ・ワヒポウナムにある14のフィヨルドのうち、2番目に大きなフィヨルドである「ダウトフル・サウンド」。
氷河の浸食によって形成されたこのダウトフル・サウンドは、ミルフォードサウンドの何倍ものスケールを誇る。
日本を出国しニュージーランドに入るまで、私たちも例に漏れず、日本でもっとも有名なミルフォードサウンドに足を運ぶ予定だった。
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ニュージーランドで開催されたトレイルランニングレース「Tarawera Ultra Marathon」に出場するため日本を出国したのは、2020年2月5日のこと。
ニュージーランドに到着するやいなや、旅行会社で働く友人からメッセージが届いた。
「ミルフォードサウンドが今大変なことになっているらしいけど、旅程は大丈夫?」
このメッセージの意味がなんなのか、私にも夫にもさっぱりわからない。
調べてみると、すぐに大変なことの意味がわかった。
2020年2月3日、ミルフォードサウンドにはたった3日で平均月間降水量の3倍もの雨が降り、大洪水が発生していた。
住民をはじめ、観光客は避難を余儀なくされ、数百人が孤立状態となっているらしい。
当然、ミルフォードサウンドにつづく唯一の道路にも影響が及んでいるそう。
主要道路での地滑りや堤防の決壊が発生し、ミルフォードサウンドへの車でのアクセスは不可能になっている。
宿泊予定の「フィヨルドランド ディスカバリー号」に連絡を取ると、私たちが宿泊予定の2月13日にはどうなっているかわからない状況で、キャンセルと返金も可能とのこと。
ただ、ニュージーランドで絶対にやりたいことの一つが、フィヨルドランド国立公園内でのオーバーナイトクルーズ。
どうしても諦めたくない。
ギリギリまで、連絡を待つことにした。
その願いが叶ったのか、ダウトフルサウンドでのオーバーナイトクルーズにプラン変更して対応してくれるという。
ヘリコプターを利用しての乗船という料金アップグレードは余儀なくされたものの、
レンタカーで、クイーンズタウンから約5時間かけてミルフォードサウンド入りし、
乗船時間は約17時間、
1泊2食(3コースディナー・コンチネンタルブレックファスト)のオーバーナイトクルーズ
というプランは、
レンタカーで、クイーンズタウンから約2時間のマナプーリの飛行場に入り、
そこからヘリコプターで約15分のダウトフルサウンド内で待つフィヨルドランド ディスカバリー号に降り立ち、
乗船時間は約24時間、
1泊3食(スペシャルランチ・3コースディナー・コンチネンタルブレックファスト)付きのオーバーナイトクルーズ
という超スペシャルなプランに変更され、特別なオーバーナイトクルーズが実現した。
空路で目指すは、“秘境”フィヨルド「ダウトフル・サウンド」
ダウトフルサウンドへは、直接通じる道がない。
ダウトフルサウンドを訪れるには、ツアーに参加するのが一般的。
その旅路はとういうと、マナポウリという町の港から、マナポウリ湖を渡る船に乗り、その後バスに乗り換えてウイルモット峠を越えるディープコーブという町に入り、そこからダウトフルサウンドへと向かう船旅になるそう。
その中でも特筆すべきは、ウイルモット峠。
この峠に道路を開通するのは非常に困難で、ニュージーランド史上、最も費用が投入された道路として知られている。
そして、ダウトフル・サウンドが持つマオリ名は、「パテア」。
その名の意味は、”静寂の場所”である。
これを聞いただけでも、ダウトフルサウンドこそ「秘境」であり、ミルフォードサウンドとは違う「手付かずの自然が残る場所」と言われる理由がわかる。
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マナプーリの飛行場にて、10:00amのチェックイン。
一台のヘリコプターの安全飛行重量に関わるため、荷物は最低限必要なものだけをもつ。
全員の荷物と本人の体重を計り、数人のグループに分けられ、自分たちの順番を待つ。
飛行場以外、見渡す限り何もない。
遠くに堂々とそびえる山々が、きっとこれから行くフィヨルドランドだろう。
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スリムな日本人2人は、運転手横の座席にキュッと詰め込まれた。
いよいよ出発。
快晴のマナプーリを飛び立ち、マナプーリ湖をすぎるとすぐ、雲で覆われた山々が現れる。
この辺りは年間降水量約7000mmと、地球上でも有数の雨の多い地域として知られている。
雨の日は、山肌を無数の滝が流れ、幻想的な雰囲気が味わえるという。
雨であることですら楽しみになるのは、なかなかない。
山と山の間を、ヘリは器用にすり抜けていく。
時折訪れる一瞬の晴れ間に、虹が顔を出す。
上空からのフィヨルドはとても美しい。
ヘリコプターの高揚感と景色を楽しんでいると、あっという間に船が近づいてきた。
ここが、ダウトフルサウンドの入り口だ。
いよいよ、神秘の入江への旅がはじまる。
ウェルカムスコーンとランチ
ヘリが船の屋上に降り立ち、一つ下の階の船内へと足を運ぶと、船内にはおいしい香ばしい香りが、いっぱいに広がっている。
カフェコーナーに案内され、乗船中は自由に選んで飲めるコーヒーや紅茶、ウォーターサーバー、焼きたてのスコーンをすすめてくれた。
船の中で、一つ一つ丁寧につくって焼いてくれているシェフ特製のスコーンは、軽くていくつも食べれてしまいそうだ。
美味しくランチが食べられるように、お腹を空かせてきてよかった。
この「フィヨルドランド ディスカバリー号」のオーバーナイトクルーズに決めた理由の一つは、ご飯にチカラを入れていたからだ。
コーヒーとスコーンを楽しみながら、屋上の様子を映し出すモニターを見ながら、他の乗客の到着をまつ。
乗客は、全員で約20名ほどの、少人数のクルーズ船。
4回のフライトで、今回宿泊する全員を船に運び、いよいよ、タスマン海に向けて出航した。
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まずは、船の二階部分にあたる共有スペース。
窓側に4人掛けのボックスシートが6つ、中央に団欒できる大きなソファ席が2つ配置され、好きな席で自由に過ごせる。
船内は想像以上に広々している。
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コーヒーを飲みながら景色を楽しんでいると、ランチが運ばれてきた。
特別に追加されているランチメニュー。
この日は、チーズリゾットにかぼちゃのローストとくるみのキャラメリゼを添えて。
インドから来たというカップルと一緒の席で、会話を楽しみながらのランチタイム。
ボリュームがあったが、チーズたっぷりなのに重たくないリゾットはペロリと食べ切れてしまった。
ランチの間に、客室の用意をしていてくれたようで、順番に部屋に案内してくれる。
キャビンデラックスキングルームでタスマン海へのクルーズ
今回宿泊する客室は、「キャビンデラックスキングルーム」。
この客室が、「フィヨルドランド ディスカバリー号」を選んだ理由の一番大きなポイント。
全ての客室が、船一階部分に配置され、水面に近い位置にある。
ベットに寝そべれば、フィヨルドの大自然が映画館のスクリーンのように、目の前に映し出される。
美しい景色を、誰にも邪魔されずにゆっくり楽しむため、このクルーズを選んだ。
タオルと一緒に添えられているウェルカムチョコレートが、おしゃれで、美味しい。
こんな素敵な部屋には、もちろん専用バスルームも完備。
手入れが隅々まで行き届いていて、アメニティも揃っている。
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この部屋でたっぷりと自然を楽しめるなんて…「最高!!!」
そうベットに飛び込んで景色を眺めていたら、いつの間にか、長いことスヤスヤとお昼寝をしてしまった。
気づけばもう、目の前にはもうタスマン海が広がっている。
雨と霧に包まれたタスマン海は、なんとも言えない雰囲気がある。
アザラシがいることを知らせてくれるアナウンスで目を覚ましたが、写真は取り逃がしてしまった。
大きな岩の上に重なり合うように共にいるアザラシたちの姿を、客室からゆっくりと眺めた。
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時折、滝のポイントに立ち寄りながら、再びダウトフルサンド内へ戻る。
セクレタリー島とアクティビティ
船は、西海岸をタスマン海に面し、南海岸東海岸をダウトフルサウンドに置くセクレタリー島の東海岸、The Blanket Bayに戻ってきた。
このクルーズには、アクティビティももちろん含まれる。
カヤックをするか…
それとも、小型ボートで楽しむか…
悩むことなく、どっちも楽しめるのも、このクルーズのいいところ。
まずは、小型ボートで、ブランケット湾内を一周する。
さっきまで乗っていた船が遠く離れ、雄大なダウトフルサンドにたたずんでいる姿は、最高にクールだ。
小型ボートは、湾内にある「The Blanket Bay “Hotel”」までやってきた。
ここは、かつて漁師たちの拠点となった小屋で、今もなお残っている。
ところが、そうゆっくりも見ていられない。
ボートに乗ってからずっと、厄介者の「サンドフライ」が、身体の周囲を飛び回っているのだ。
じっとしていると刺されてしまうので、乗客たちはみな、足をバタバタさせ、雄大な自然を楽しむのと厄介者との戦いとに忙しい。
そんな様子を見てか、ボートは一旦、船に戻る。
戻った船内で、サンドフライ除けのスプレーを身体中に振りまき直し、カヤックに乗り換える。
自分のチカラで進む、ダウトフルサウンドはまた一味違う。
ずっと深緑にくすんで見えていた水面は、とても透き通っていることがよくわかる。
水深があまりにも深すぎて、水が深く濃い緑色に見えていた。
滝に近づくと、ひんやりとした空気に包まれる。
湾に出れば、日中なのに静寂だ。
そういえば、このクルーズが始まってから、一度も客船を見ていない。
世界遺産のフィヨルドの地が、贅沢にも貸し切りなのだ。
独り占めのようにダウトフルサウンドに触れて、船に戻る。
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夕食までの時間をおもいおもいに自分の時間を過ごす。
中には、船から飛び込みをして楽しむ乗客もいる。
長袖を着ていても少し肌寒いのに、さすが欧米人!あっぱれ!である。
船の後方でカヤックが片付けられると、今度は、たくさんのクレイフィッシュがスタンバイ。
ロブスターと呼ぶのが日本では聞き慣れているが、これまで見てきたロブスターとは、大きさが全然違う。
さっき捕獲してきたばかりの、今日のディナーの主役。
ディナーが最高に楽しみになってきた。
キッチンをのぞくと、クルーが楽しそうにディナーの準備をしてくれている。
3コースディナーとレインボー
楽しい時は、あっという間に流れてしまうのは、なぜだろう。
19:00頃船内アナウンスで、ディナータイムのお知らせがされた。
席につくと運ばれてきたのは、クレイフィッシュ(ロブスター)のスープ。
さっきまで勇ましかったクレイフィッシュは、見事なまでに美しいスープになっていた。
これでもかと贅沢なほどに、引き締まった身がたっぷりと盛られている。
次のメインコースは、白身魚のソテー、オーガニック野菜とローストポテト添え。
ローストポテトとのお知らせを聞いた欧米人客から、喜びの拍手喝采が。
私たちも思わず拍手でメイン料理を迎えた。
このお魚も、きっと、さっきまで私たちのカヤックの下で泳いでいたに違いない。
美味しさと、幸せに感謝してもしきれない。
3コースディナーの締めくくりには、お待ちかねのあまーいデザートを。
デザートの途中、ダウトフルサンドの一日の締めくくりを、虹が知らせてくれた。
ディナーを終え、ダウトフルサウンドの映像に見入っていると、辺りはすっかり薄暗い。
霧がすぐ手の届きそうなところに迫っている。
ダウトフルサウンドが霧に沈むとともに、私たちも眠りについた。
ダウトフルサウンドの夜明け
目を覚ますと、あたりはまだ静かで真っ暗だった。
朝6:30に目覚ましをかけたのだが、夜明けが楽しみで、それよりも早く目が覚めてしまった。
この夜明けの時を待ちわびていたことを、身体はしっかり分かっているようだ。
パジャマのまま上着をバサッと羽織って、一眼カメラを握りしめて、甲板へ向かった。
まだ誰の気配もない、ただただ、静寂を噛みしめる。
聞こえるのは、各地を一緒に旅してきた、聴き慣れた一眼レフのシャッター音だけ。
刻一刻と、私の目の前に広がる絵画は、色を変え、向きを変え、全く私を飽きさせない。
船はゆっくりと、帰路へつく。
コンチネンタルブレックファスト
7:30になると、ぞろぞろと朝食をとりに、ダイニングルームに集まってきた。
いつどこにいたって、ブレックファストには、心踊らされる。
数種類のベーカリーに、フルーツとヨーグルト。種類は決して多くはないけれど、どれも美味しい。
メインの卵料理は、サニーサイドか、ポーチドか、それともスクランブルか…。
迷いに迷って、スクランブルエッグに決めた。
フワッフワで、ボリュームたっぷり。
もうたべられないというほど、美しい景色も、美味しい朝食にも、おなかがいっぱいで幸せである。
船長の座る特等席の横のシートで、景色を楽しみながらいただいた。
ご機嫌なダウトフルサウンド、イルカたちのお見送り
二日目のこの日のダウトフルサウンドは、快晴でご機嫌だ。
水面は、キラキラと輝きを放ち、前日とは全く違う表情の入り江が広がっている。
白と黒と深緑だけ。
たった3色で構成されたダウトフルサウンドも美しかったが、透き通った青と鮮やかな緑もたまらない。
最低限の荷物の中に、一眼レフカメラの充電器を入れてこなかったことだけを後悔する。
私は点滅する電池マークのご機嫌を伺いながら、船の、右に行ったり左に戻ったりと忙しい。
この景色を逃すまいと、シャッターを切り続ける。
すると突然、船前方の甲板がざわつきだした。
「Dolphines!!!」
昨晩のディナータイムに、このクルーズ船のムービーを見せてもらっている時、ここにもイルカが生息していることを知った。
「運が良ければ、会える。」
そう聞いていたので、今日はどうやら最高の1日らしい。
イルカたちは、船を先導しているかのように、そして私たちとじゃれ合うように、クルーズの最終地点まで並走してくれた。
再びの空路で、マナポウリへ
イルカとともに、出発地点に到着した。
10:00am、次の日の乗客を乗せたヘリコプターがやってきては、それと入れ替えに、私たちがヘリコプターに乗り込む。
24時間、本当にたっぷりと楽しませてくれた船のクルーたちは、この日も街に戻ることなく、そのままクルーズと向かうようだ。
寝る以外の時間は、フィヨルドを楽しみにやってきた乗客のために楽しませ続けてくれた。
突然の災害に、避難客のフォロー、その他日程のクルーズ場所変更と旅程変更…と、間違いなく疲労があるはず。
そんな疲れひとつ見せずに楽しませてくれたことに感謝しかない。
空からのフィヨルドも、昨日とはまた違った風景だ。
またいつかニュージーランドを訪れる時、
その時は迷わずまたこのクルーズ船に戻ってきて、ただただ自然を楽しむ、特別な時間を過ごしたい。
次は、きっとミルフォードサウンドで。
そして、たくさんのハイカーを魅了するミルフォードトラックも一緒に楽しみたい。
ミルフォードサウンド オーバーナイトクルーズ フィヨルドランド ディスカバリー(Milford Sound Overnight Cruise – Fiordland Discovery)詳細
今回利用したオーバーナイトクルーズ船は、フィヨルドランド ディスカバリー。
予約は、ホテル予約サイトの「booking.com」または、公式ホームページからのみ。
料金は変わらないため、booking.comのアカウントがある方はbooking.comにて予約を行い、詳細確認を公式ホームページにておこなうのがもっともスムーズでおすすめ。
ベストシーズン期間中は、数ヶ月前から予約が入っているため、早めの予約を。(私たちは3ヶ月ほど前の予約で、すでに第一、第二候補日程は満室。クルーズの空室に合わせて南島旅程を再構築)
【客室情報】
キャプテンクック キャビン デラックス キングルーム
– キングベッド1台
– 大人定員2名
ガバナーズ キャビン エグゼクティブ キングルーム
– キングベッド1台
– 大人定員2名
エンデバー キャビン デラックス ツインルーム
– シングルベッド2台
– 大人定員2名
デラックス
– 二段ベッドのベッド4台
-大人定員4名
【その他の情報】
- 無料駐車場(飛行場)
- アルコール類は持込不可で船内にて有料
- 無料ウォーターサーバー
- 無料ティー&コーヒー
- アクティビティ(カヤック&ボート探索):天候による
- トップデッキでのホットタブ
- 定員1泊20名の少人数クルーズ
- 最小限の荷物のみで乗船
【持ち物】
- NZ現金/通貨
- サンスクリーンローション&サングラス
- 防虫剤(船にも用意あり)
- カメラ
- レインジャケット
- 濡れてもいい滑りにくサンダル
- 水着
【料金】
一泊二食付き4人部屋:NZD1,698.00/約¥100,000(2人の料金)
一泊二食付き2人部屋:NZD1,498.00/約¥113,000(2人の料金)
【MAP】